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 時計を見ると、もうとっくに法事は終わっている時間だった。
親戚たちはもう帰っただろう。
今から車を飛ばせば、墓参りくらいは出来るかも知れない。
恭平は、背後から浴びせられる冷たい視線を無視して車に乗り込んだ。
どうせなら明るいうちに着きたかった。
朝子の墓は、静岡県にある。
富士山を背にした広大な墓地で、宗派は問わないからクリスチャンだった朝子のためにはうってつけだった。
お墓にもリゾートというカテゴリーがあるのならまさしくそれで、その中でも一番見晴らしのいい明るい場所にあった。
ここなら、この時期満開のソメイヨシノに囲まれてにぎやかだし、なんといっても海が見える。
恭平は、この場所が気に入っていた。
朝子が大好きだったハワイの方向を向いているのだ。
 

 墓には、すでに花がそなえられていた。
途中で買ってきた朝子の好きだったデンファレを横に置き静かに手を合わせた。
恭平が朝子にあらたまって言うことは何もない。
朝子は常に恭平の隣にいるのだ。
普段から朝子とは会話をしている。
学生だったあの日と今も変わらずに。
 

恭平は帰ろうとして、なにげなく横を見た。
隣の墓石に向かって若い女性が手を合わせていた。

恭平は目を疑った。

西日が背中から当たっているせいで顔は濃い影になっているが、真横から見た雰囲気が、まさしく朝子だったのだ。
髪は黒く短くて、すらっとしたスタイルにジーンズがとてもよく似合っている。
白いブラウスに生成りの麻のセーター、そしてジーンズのジャケット、カジュアルだけどなんとなく上品な雰囲気に朝子をだぶらせて、金縛りにかかったようにそこを動けなくなった。
 

シルエットがとても美しい。
 

朝子は、子供の時からクラッシックバレイを習っていたせいもあって、立ち姿がすごくきれいだった。
洗いざらしの綿のシャツをさりげなく着こなした。
恭平はそんな朝子のシンプルなライフスタイルが好きだった。
今で言うロハスな生活を実践していた。
お化粧もほとんどナチュラル・・・肌も髪も本当にきれいだった・・・そんなことを思いだしながらしばらく彼女を眺めていた。
 

太陽が落ちるのは早く、白いブラウスを黄色に染めた太陽は演目が終わった事を知らせるようにやがて彼女から色を奪っていった。

恭平はゆっくりと立ち上がり、彼女が朝子である訳もなく、声をかけたい衝動をおさえてその場を後にした。