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 治子から電話があった。
 

「今度のハワイロケ、美奈でいいかな? 私仕事が重なっちゃって行けないの・・・いいよね?」
 

美奈のことを思うと断れるはずもない。

恭平は思った・・・ハワイの空気を感じてくるだけの短いロケなのだ、それでも美奈の喜んでいる顔が目に浮かぶ。

このハワイロケはタレント夫婦の都合で急遽行くことになった。
夫である歌舞伎役者が
NHKの大河ドラマの主役が決まっていたため彼等の最後の休みに便乗してのロケなのだ。
だから行ったとしてもほとんどとんぼ返りだった。

ハワイでの撮影となったが、本来は日本が設定の頭痛薬のTVCMだった。

感動的な景色を見せたいがために妻を連れて四駆でやってくる。
そしてそれから先をマウンテンバイクでという時に彼女がそっと頭に手をやる。
“早く効いて胃にやさしい”がキャッチフレーズのその薬をのんでことなきを得た彼女は、ホノルルのカピオラニ公園の木立の中を楽しそうに走り回る。
そして訪れた妻の感激の顔・・・見たこともない壮大な景色と対面する・・・顔に西日が当たって幸せそうに寄り添う二人。妻が言葉もなく夫を振り返る時の幸福感に満ちあふれた顔。
“君の笑顔にやっと会えたね“とスーパーが入る。
これはオアフのハワイカイとモロカイ島の2カ所に分けて撮った。

そんな短いハワイ滞在最後の夜、打ち寄せる波の音を聞きながら、恭平と美奈はスタッフとともにマイタイバーにいた。

昼間の余韻を忘れられない子供連れの家族達がすっかり熱さを吸い込んでしまった砂浜を裸足ではしゃぎ回っている。
 

「あっという間だったな・・・でも、ホノルルじゃハワイの良さはわからない。」
 

「・・・」
 

「どうした?疲れたかい・・・?」
 

「少し・・・」
 

帰還するディナークルーズの遊覧船が遠くにいくつも見える。
 

「ここだとあんまり星も見えないんですね・・・結局虹も見れなかった・・・でも、来てよかった・・・また来たいと思えたから・・・」
 

「いつだって来れるさ・・・」