3
 

 次に目を覚ましたのは3時間後のことだった。

からだ全体が上から何かにのしかかられたように重かった。
 

「記憶喪失だって・・・」
 

少女だった。
目に一杯涙をためて立っていた。
 

「私が、あんなことをしたばっかりに・・・本当にごめんなさい。」
 

まだ少し頭痛がしたがベッドを起こしてもらって少女の顔を覗き込んだ。
 

「記憶喪失・・・そうか・・・」
 

私は、さっきより落ち着いていた。

そして、ようやく自分のおかれている状況を理解した。

それは、ただ理解したというだけで解決にはならなかった。

これから、どうしたらいいのだ・・・?帰る家さえわからないのだ。

なぜ、大島にいるのだ?・・・いや、それとも大島の住人なのか?・・・指を見た・・・爪が少しだけ伸びていた。
顔を触ってみる・・・ヒゲはきれいに剃られていた。
目は悪くないらしい・・・体は結構筋肉質だ・・・自分の体を客観的に眺めてみても自分が何者なのかはわからなかった。

考えても仕方がないことがわかると、しばらく外の景色をボーッと眺めていた。

窓の外には、椿の木とその向こうに海が見えた。

ふと、少女のことを思い出した。

ベッドのそばにまだ立ったままで、私を不安そうに見ていた。
 

「ところで・・・君は自分の名前を覚えているかい・・・?それとも、君も忘れちゃった・・・?」
 

少女の顔に少し笑顔が見えた。
 

「のりこ・・・」

「中学生・・・?」

「16歳・・・」
 

どうみても、高校生には見えなかった。
 

「失恋でもしたか・・・?」
 

のりこは、うつむいてかぶりを振った。
 

「ごめん、言いたくなかったら言わなくてもいいんだ・・・でも、家の人には連絡したの?」

「・・・」

「オーケイ、わかった。大丈夫・・・もう何も聞かないから・・・」
 

そこへ、巡査が入って来た。
 

「どうですか・・・ご気分は?」

「まだ少し頭痛がするけど、もう大丈夫だと思います。ご心配をおかけしました。」

「それはよかった。でも、名前も思い出せないんじゃ困りましたね・・・もちろんどこから来たのかも思い出せないんですよね・・・?」

「申し訳ありません。」

「いや、仕方がないですよ。だけど・・・あなたが助け上げられたときポケットには何も入っていませんでした。旅館やホテルにもそれらしき予約も入っていませんし・・・つまり、あなたが誰でどこから来たのか、今のところ手がかりがありません。ただ、大島の住人ではないようです。たぶん、訛りもないし・・・東京か・・・その近辺の方であることには間違いないでしょう。ま、ここでしばらく静養したら何か思い出すかもしれません。」
 

その巡査の名前は田口と言った。
人懐っこくてなんとなく気が合う感じがした。
とにかく私は、あと1週間この病院に世話になることになった。